こんにちは。
昨日の読書は、柚木裕子さんの『ミカエルの鼓動』でした。
柚木裕子さんの作品は、デビュー作の『臨床真理』から、全部読破しており、この作品だけ、まだ未読でした。
先日入会したAmazon Audibleにもオーディオブックがあったので早速、2.3倍速で耳読!
物語の舞台は、北海道のとある大病院。
キリスト教の三大天使ミカエルの名を冠した手術支援ロボット《ミカエル》を駆使した手術の第一人者、西條という46歳の男性医師が主人公です。
西條は、幼い頃に両親を亡くし、貧しくて父が高額な手術を受けられずに病死していく姿を見て、医師になった人物。
そのため、既婚者でしたが、子宝には恵まれていなくても、命の誕生よりも、「今ある命を守る」ことに使命を感じているため、苦に感じていませんでした。
しかし妻は、心底、傷ついており、西條の仕事の忙しさからすれ違いが続きます。
そんなある日、ドイツから心臓血管外科医として高名であった真木という男性医師が、西條と同じ病院に赴任します。
真木は、一般の外科医が30分かかる手術後の処置も、15分で終わらせるなど、迅速な判断と処置の速さ、正確さが、天才的でした。
しかし、ロボット技術は一切行わないため、西條とは対抗した立場でした。
ある日、正確さに定評のある《ミカエル》に、一部で黒い噂が立ち始めます。
西條のもとにも、「ミカエルは最悪のロボットだ。欠陥品だ」という噂が耳に入ります。
西條が懇意にしていた、広島の外科医の自殺。
院長が、西條を差し置いて、真木を時期副院長のポストに推している噂など、西條も窮地に追い込まれていきます。
ミカエルの黒い噂が濃厚になり始めた時、西條は12歳の少年の心臓手術を担当します。
ミカエルの不具合を確かめるチャンスですが、失敗すると少年の命が危ない。
ライバルの真木に助けを求めるべきか……?
西條は、真木の謎めいた生きざま、他者とは関わり合いを持たない一匹狼的な姿が、気になります。
真木に尋ねても何も答えない。
ラストでは、西條は真木の真の姿を、ある医師から聞き出し、自分と同じように貧しい環境から医師を志した事実を知ります。
「いまある命を救う」のが西條の医師としての使命。
西條は、初心に帰り、手術支援ロボット《ミカエル》の第一人者という肩書に拘っていた自分を恥じます。
勤務先の病院を去る時、真木は西條に声を掛けます。
さて、何と声を掛けられたのでしょうか?
プロローグとエピローグは、西條が雪山で遭難するシーンです。
西條は、生きて戻れるのか?
薄らいでいく意識の中で回顧した医師生活から、生きる希望を見出せるのか?
職業は違えど、自分自身も「何のために生きているのか?」などを考えさせる作品でした。
涙腺を刺激するシーンもあるので、ハンカチもお忘れなく。
今年の第166回直木賞候補作にあがった話題作なので、ぜひ!